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クリエイティブ起業のすすめ

デジタルコンテンツなどのクリエイティブ分野で起業を目指す人に向けて、自分の体験をベースに役立つ考え方やノウハウを提供したいと思っています。

Facebook本社を訪問。AIとVRについて意見交換

Facebookを訪問。AIやVRなどハイテックの将来像について意見交換

目下、AIやVRでの事業展開を考えている。シリコンバレーのメンロパーク市にあるFacebook本社を訪問し、関連部門の担当者と話してきた。

キャンパスと呼ばれる爽やかな風が吹く構内

構内に入ったのは初めてだが、 噂に違わぬ光景が広がっていた。まず、ビルの前に停められた共用自転車が目に付いた。ロビーで受付を済ませて広大な敷地内に入ると、青や黄色のアクセントが効いた低層ビルがコの字に10棟ほど並んでいた。ビルに囲まれた広大な中庭は、ディズニーランドの庭園デザイナーが設計したそうだ。

中庭では木々の間を爽やかな風が流れていた。コーヒーカップを片手に、若い社員たちが議論をしながら歩いていた。Facebook社員の平均年齢は20代後半だそうだ。中庭にはキッチン棟が3つあり、カフェテリア方式でさまざまな食べ物が選べる。飲食は無料。昼食はそこで牛ほほ肉のローストをごちそうになった。

日本でIT企業というと、六本木ヒルズ渋谷ヒカリエなど高層ビルで社員のガシガシ働く姿がイメージされるが、サンノゼエリアではこういった低層と緑の多い大学キャンパス風のつくりが流行りだ。のびのびと画期的な発想が溢れ出てきそうで、うらやましい。日本でやるなら、たまプラーザか中央林間あたりが最適だろうが、人が来ないだろうなあ。

毎週金曜日に、中庭の野外ステージに社長のザッカーバーグが現れ、タウンミーティングが開かれる。社員たちから投げかけられる事業方針や就業ルールなどへの質問に、ザッカーバーグが直接答える。いわば昔ながらの“村の集会”だ。IT企業といえども人間の集団であり、グループウエアでの情報交換だけでは不十分で、円滑な運営にはリアルな対話が欠かせないということだ。

恐るべきは10年で1万人のスピード。英語圏は日本語の14倍、非言語で勝負すべきか?

しかし、実際この環境に身を置いてみると、10年で社員1万人というスピード感に改めて驚嘆する。Facebook社が本格的な企業買収を始めたのは創業5年目だが、以降57社を傘下に収め、拡大していったという。

このスピード成長の大きな要因の一つは、英語市場の大きさだ。日本語市場は1.2億人だが、英語圏は第一言語で日本語の3倍、第二言語まで含めると14倍の規模を持つ。英語圏なら同じ努力でITサービスを作ったとしたら、収益が3倍、14倍になって跳ね返ってくる。次の成長企業を買い取る資金がゲットできて当然とも言えるだろう。

では日本企業はどうすべきか? かつて、テレビや車など、言語を問わないモノ商品で世界を席巻した日本企業。コンテンツやITサービスには言語が付きまとうが、コンソールゲームやポケモンGOなど、極力言語を排したものも多い。非言語コンテンツの方向で勝負するべきか?

2016/08/15執筆 再掲

ベトナム アウトソース先の選定基準は?

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◆アプリ開発のアウトソース先、ベトナムを訪問した

 5月初旬、1泊3日の強行でホーチミン市を訪ねた。ようやく売上が伸びてきたSFスタジオを黒字までしっかり持っていくには、まず、開発費を抑える必要があり、その対策としてベトナムの開発ベンチャーに、一部作業をアウトソースすることにしたからだ。

 SFの開発人件費は、ジュニアレベルのエンジニアで1人あたり月$6.5 K(80万円)と世界一高い。東京の2倍以上だ。この圧縮はシリコンバレー共通の課題である。

 

◆インド、フィリピン、ベトナム?選定基準はコストだけじゃない

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 当初、アウトソース先の候補に挙げたのは、インド、フィリピン、ベトナムの3国。インドは、英語のレベルが最も高く、先進国からの受託経験は豊富だ。しかしその分、人件費は高い。1人あたり月$4 Kと、SFの6掛けで安くはない。また主流業務はWebサイトやデータベース関連で、ゲームなどエンタメ系には慣れていない。

 もう一つの弱点は時差だ。インドから見てSFは地球の真裏にあり、SFの朝9時はインドの夜9時、SFの夜7時はインドの朝7時となる。毎日スカイプするのに12時間の時差は辛い。

 時差は意外に重要だ。込み入った話をメールのみで済ませるには限界があり、週1、2度の直接コミュニケーションは欠かせない。テンパっているときなど、現地の時間帯が昼・夜と違うことで喧嘩になることもある。テンションのズレが発生するからだ。一方が夜でゆったりと一日の反省モードに入っているときに、朝仕事を始めようとしている相手国が、アレもコレもと言う。夜側の国は、それをうっとうしく感じることもあるし、朝側の国からすれば、お前らやる気あんのか? となる。時差はなるべく小さいほうがよい。

 フィリピンは、コスト的には月$3Kで安いほうだ。SFとの時差は8時間で適当。ただ、受託の歴史が浅く、開発技術もまだ低い。アプリ分野に最適といわれるアジャイル型開発(細切れ開発)の経験がなく、ウォーターフォール型(全部開発)が主流で、英語レベルも高くない。

 そしてベトナムは、英語レベルは高くないが、人件費が最安なのが魅力である。月$2.5KとSFの3分の1。彼らにとって高価なのは人間でなく“キカイ“、パソコンだという。時差は9時間で許容範囲だ。コストと品質、仕事のやりやすさの面からベトナムの企業に決めた。

 

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シリコンバレーで学ぶ③ ボルテージUSA、悪戦苦闘の4年

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株式会社ボルテージ
代表取締役会長 ファウンダー
津谷祐司

 本シリーズでは、停滞する日本が「新ビジネスを次々生み出すシリコンバレー」から学ぶべきものは何か、を考えている。これまで、「キャリア自力開拓の精神」と「トップダウン型のリーダーシップ」を取り上げた。

 今回は、「ボルテージUSA、悪戦苦闘の4年」をとおして学んだ、シリコンバレー流の組織づくり、商品づくりを紹介する。

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◆赴任した日本人リーダーと未経験の20代アメリカ人で出発

 2012年から始まった「Voltage Entertainment USA」(SFスタジオ)の1年目は、さまざまな問題が頻発し、成果を出すどころか、組織すらうまく回らなかった。その原因となったのは、ボルテージ日本本社とのギクシャクした関係性、もう一つは我々日本人リーダーと現地採用組の対立だ。今思えば、僕の米国流マネジメントの理解不足と、キャリアのある現地人材を集められなかったことが原因だった。

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 日本から赴任したのは、経営陣として津谷と東、中堅の現場リーダー2人の計4人。最初に現地で採用したのは、日本アニメが好きという若い女性たち数名のみである。みなエントリー(基礎的職種)としての採用で、前職は店頭販売員など、デスクワークは初めてという人もいた。当時、米国のアプリ市場は始まったばかりで、シリコンバレーでもアプリ制作の経験者は少なかった。そもそも、米国で何の実績もない小さな日系企業にピカピカの経験者が応募して来るわけがない。ゆえに、日本人リーダーが、素人の彼女たちにHTMLの基礎を教えるところから始めざるを得なかった。
 アプリのエンジン・システムは日本本社で活用していたものを流用し、米国ではストーリーとイラストのみを作成することにした。ライターは簡単に見つかったが、イラストレーターは数が少なく、探すのに一苦労だった。改めて、マンガ産業にかかわる日本の人材層のブ厚さを痛感した。

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シリコンバレーで学ぶ② トップダウン型のリーダーシップ

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株式会社ボルテージ
代表取締役会長 ファウンダー
津谷祐司


 本シリーズでは、停滞する日本が「新ビジネスを次々生み出すシリコンバレー」から学ぶべきものは何か、を考えている。1回目は「キャリア自力開拓の精神」を取り上げた。今回は「組織のあり方」と「リーダーシップ」に焦点を当てる。新ビジネスを次々生み出す、組織とリーダーのあり方とは?

シリコンバレーは「トップダウン型」、日本は「ボトムアップ型」

 シリコンバレーで経営をスタートさせてから、日本とは組織のあり方が違うと感じることが何度もあった。基本的に、シリコンバレーは「トップダウン型」日本は「ボトムアップ型」だ。

 シリコンバレーでは、社長と平社員がファーストネームで呼び合うなど人間関係はとてもフランク。誰もが自分をアピールする文化なので、平気で社長室のドアをノックしていろんな提案をしてくる。正直稚拙なものも多く、最初のころは無下にはできないと対応に困っていたが、間もなく分かったのは、上司が一旦「A」と決めると、本人の意向は「B」でも素直に従う文化だということだ。日本だと「せっかく提案したのに」と後を引きそうだが、なぜこういうメンタリティが醸成されたのか?

 一番の理由は、役職ごとに責任と権限がはっきりしているからだと思われる。プロジェクトが失敗したら、その責任はリーダーが負う。「クビになるのは自分」と認識しているからこそ、リーダーは部下が何と言おうと自分が信じる道を強く推す。部下のほうも、自分に権限がないことが分かっているので無駄な反発はしない。決定権を持ちたいなら、リーダーに上り詰めるのが先なのだ。もちろん、決定権を持つとはいえ、リーダーが専制君主的な振る舞いをするわけではない。その道を選んだ理由を丁寧に説明するのは当然だ。
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 日本の場合、言葉使いや作法など人間関係の上下は厳しいが、仕事上の意識はリーダーも部下も横一線に近い。だから、プロジェクトが失敗したとき、その責任はチーム全体にあるとされることが多く、リーダーの降格は起こりづらい。個人責任の追及は、日本人のメンタリティにも反する。だから、リーダーは強く主張するより、部下の意見を集約する「受けの立場」になりがちだ。

 こうした差が生じるのは、日本と西洋の主従関係に歴史的な違いがあるからだろう。一言でいうと、日本は殿様と家臣の間の準血族的で長期的な関係。西洋では、騎士が真に仕えるのは神であり、現世の主人との契約はビジネスライクで短期的なもの、という関係が醸成されているということだ。*詳しくは、おまけコーナーで。

トップダウンは起業時に威力。ボトムアップは改善時に効果


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 トップダウンボトムアップ、双方にいい点、悪い点があるが、新規事業を起こすケースに関しては、トップダウン型のリーダーシップが圧倒的に有利だ。

   既存ビジネスの場合、具体的な形がすでにあり、現場担当者には様々な知見がたまっている。日々ユーザーの反応に対面し、試行錯誤を続けているのだから当然だ。課題にぶち当たっても、蓄積を生かし、知恵を出し合えば解決できるものが多い。集団的なボトムアップ組織は、商品を世の中に出した後、改善しながら継続していくビジネスに向いている。

 しかし、まだ形のないビジネスをつくろうとする場合は異なる。大勢でむやみに議論しても時間の無駄だ。何が正しいのか誰も分らないから、結論に至れず、仮説が積み上がるだけ。だから、誰か一人の決定者を立てるべきなのだ。完成形のイメージを明確に持ち、かつ、スタッフを引っ張る胆力を持っている人物がいい。日本でも、成功しているベンチャーソフトバンクを筆頭に強いリーダーによるトップダウン型が多い。

 ジョブズザッカーバーグなど、有名どころの起業家は、市場の淘汰を何度も潜り抜ける過程でトップダウン型のリーダーシップを磨いてきた。では、組織内で新規事業を創出する場合、どうやってリーダーを定めるか? 組織内で人物評定したうえで、一定期間任せてみるしかないだろう。そして、成果の度合いとチームの士気によって、リーダーの力量を判断する。

 注意すべきは、独裁的なトップダウンだと、商品が独りよがりになりがちなこと。有名な話がアップルのiPad開発だ。ジョブズiPhoneは3.5インチ、iPadは9.7インチ以上と信じていて、7インチのタブレットなどあり得ないと公言していた。しかし彼亡き後、新体制のアップルは7.9インチのipad Miniを発売し、成功させた。

トップダウン型リーダーがやるべきこと


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 ボトムアップ型のリーダーなら、目指すビジョンやゴールが不明瞭でも、部下が頑張ることで物事は前に進むことがある。  しかし、トップダウン型だとそうはいかない。ゴールを示さないとスタッフが動いてくれないため、何をすべきかわからず、止まってしまう。トップダウン型のリーダーは、明解にゴールを示し、自ら先導して動く「有言&実行」型であるべきだ。僕が考えるトップダウン型リーダーの要点は次の4つだ。
① ビジョンやゴールを明確に語る  メンバーに実現したいことのイメージを語り、当面のゴールと期限を具体的に設定する。

② 課題解決の方法論を示す  ゴール実現のための戦略や方法論を示す。また、実行過程で問題に直面したときも、解決策の提示はリーダーの役割。日本だと、現場担当者が解決しようとするが、シリコンバレーの現場は問題だけ上げてくる印象だ。僕は、日本ではPDCAプロセスを若手中心に廻していたが、SFスタジオではリーダー中心に切り替えた。

③ 全員に貢献させる  メンバー全員に役割分担し、プロジェクトに貢献している実感を持たせることが重要。それによってやる気がまったく違ってくる。誰がどのパートを担当し、いつまでに仕上げるか、綿密に計画し、毎週進捗を確認する。

④ 部下との密なコミュニケーション  リーダーが専制君主では人は動かない。部下としっかりコミュニケーションを取る。酒の席などではなく、一人ずつ時間を取って定期的にその場を設定する。
 ちなみに、日本のボルテージでは、リーダーがゴールや解決策をコンパクトに紙面にまとめ、月一度の全社会議で発表するという文化があり、これはそのままSFスタジオでも引き継いでいる。

シリコンバレーでは、管理職になる時点で強制的にリーダー教育をする

 リーダーシップをどうやって獲得するか? 日米では大きく違っている。

 日本企業の場合、社員はゼネラリストとして育成されるケースが多い。新卒入社後、複数の専門分野にまたがったローテーションが施され、その延長線上で管理職への選抜が行われる。リーダーシップは、そのキャリアパスを通じて自然に習得されるものであり、管理職のポジションに就くころにはある程度備わっているととらえる傾向がある。このため、なかなかリーダーシップの開発に目が向けられなかった。

 米国では、若いころは専門スキルを積みたいというスペシャリスト志向が高いが、管理職に選抜されると、それまでとは異なり、広い視野を持ち、チームをマネジメントするリーダーシップの習得が要求される。そのため、リーダー教育に積極的で、研修、評価、ローテーションがシステマチックに組み合わされた様々なリーダーシップログラムが開発され続けている。
(出典:「リーダー像に異変あり 日本は『強制型』米国は『調整型』」 2007 ヘイ コンサルティング グループ)

◆リーダーになりたい人、なりたくない人

 シリコンバレーでも日本でも、働く人全員がリーダーを目指しているわけではない。

 日本企業では、新卒入社後35~40歳前後までは横一線の出世競争が続き、そのプロセスのなかでリーダーシップを身に着けようとする。しかし現実は、新卒入社の全員がリーダーを希望するわけでも、その資質を有しているわけでもない。

 シリコンバレーでは、30歳前後にはリーダーの資質が見抜かれ、エリートコースに乗る人とそうでない人に選別される。そして、エリートコースには、先述したようなリーダーシップ教育が施される。一方、エリートコース以外の人はスペシャリストを目指すことになる。当然だが、より権限と責任の重いエリートコースのほうが、スペシャリストより優遇され、報酬も高くなる。

 リーダーはとてもストレスフルなポジションだ。ばらばらのメンバーをひとつに束ね、定めた目標へと引っ張り続ける。絶えずメンバーから不満をぶつけられるが、ファイティングポーズを解いてはならない。ちなみに、打たれ弱いといわれる「ゆとり・さとり世代」には、リーダーの立場になることを望まない人も多いようだ。今の日本企業は、早期のうちに将来のリーダーたる人材を選別しておくべきだと思われる。

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シリコンバレーで学ぶ① キャリア自力開拓の精神

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株式会社ボルテージ
代表取締役会長 ファウンダー
津谷祐司

 

 サンフランシスコに子会社「Voltage Entertainment USA」(SFスタジオ)を設立し5年目。これまでに10億円投資し、現スタッフは30人。まだ赤字だが、経営にシリコンバレー流を取り入れることで黒字化が見えてきた。
 
 この3回シリーズで話したいのは、停滞する日本が「新ビジネスを次々生み出すシリコンバレー」から学ぶべきものは何か、ということだ。1回目の今回は、シリコンバレーで働く人のキャリアパスに対する意識、行動をみる。

   

◆「道は自分で切り開く」この精神が、ビジネスの新陳代謝を引き起こす

 

 そもそも日本の停滞の原因は何か?日本人の頑張りや能力が低下したのではない。前時代のやり方を引き摺っているからだ。
 
 戦前の話だが、日本もシリコンバレーと同じ「即戦力採用・途中解雇」が一般的だった。ところが戦後、偶発的に「新卒一括採用・終身雇用・年功序列」という仕組みが生まれた。これは、人口急増を背景にほぼ全ての業界が一律に右肩上がりとなったため、企業が人手不足を解消する必要に迫られたからだといわれる。内部に人材を留保するための施策だったのだ。この仕組みは時代に合致し、40年に渡る成長の基礎となった。
 
 しかし90年代前半、日本は人口減少にともなう成熟期に入った。以来、20年の停滞だ。国内消費のパイが大きくならないのだから、社会を活性化させる方法は新陳代謝しかない。そこで、シリコンバレーから新しい発想を得たい。

   
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 SFスタジオの設立時、スタッフは一から募集し、採用した。他社は地元企業を買収する形が多く、我々のスタイルは珍しかったと思う。僕はかつてUCLAで自主映画を作っていて、新聞広告で俳優やカメラマンを集めていたので、やるなら全部自前で、という感覚があった。1000枚のレジュメ(履歴書)と300名のインタビュー(面接)を重ねたが結果、日本とシリコンバレーの職業観の違いを目の当たりにした。
 
 彼らは「自分の道は自分で切り開く」という意識がとても強い。日本人は真逆で、会社任せという意識の人が多い。移民国家では主張しないと埋没し、ムラ社会では主張するとギクシャクする、という背景もあるが、直接的には「新卒・終身・年功」の影響だ。
 
 シリコンバレーが強いのは、この「自力開拓の精神」が「ビジネスの新陳代謝」を引き起こしているからだ。受け身体質のままでは、日本はいつまでたっても活性化しない。グローバル競争にも勝てない。シリコンバレー的「自力開拓の精神」を取り入れるべき時が到来している。

   

◆就職の際は、自力で職種を決める。自分の力量と市場性を客観視する力

 

 自力開拓が最初に現れるのが就職時だ。日本では、入社時には職種は決まっておらず、研修などで適性を見極められ、マネジメントが配属を決める。しかし、シリコンバレーでは営業なら営業と、完全な「職種採用」だ。自分で職種を決め、応募しなければならない。
 
 人気職種は競争が激しい。かといって、花形の仕事に就きたい若者が、能力を考え第二志望にターゲットを変える、といった決断をするのは難しい。日本のようにベテランによる判断の方が当面のマッチング精度は高いだろう。
 
 しかし、自分の力量と市場性を客観視することは、大きな力になる。それを繰り返すことで、有望市場を見極め、自分の価値を高めることにもつながるだろう。この力がないと時代遅れの職種に居続けてしまうかもしれない。
 
 では、シリコンバレーの新卒が「最初の職種」を見いだす手立ては何か? それは、大学の夏休みや、卒業後のギャップ・イヤーに行われるインターンシップだ。
 
 就職前、仮採用のかたちで、エントリー(基礎的職種)やアソシエイト(補助的仕事)を経験する。例えばゲーム業界では、「QA」(品質テスト)というエントリーカテゴリーがあり、ユーザー視点でゲーム評価をするが、エントリーの仕事はこの手の、浅く広く業務全般をサポートするものが多い。
 
 続けるうち「自分にはこれが向いている」と明快になる。1年後には、希望職種での正式採用を掛け合ったり、募集中の他社にアプライするようになる。日本にも「1日インターンシップ」「初期ローテーション」はあるが、今後はこのような「半年インターン」「エントリー職種」の活用も考えるべきである。

                         

◆20~30代は、よいレジュメを書くために役職と実績を手に入れる

 

 就業後はタイトル(肩書)に非常にこだわる。例えば、プロデューサーには、下からアソシエイト、ジュニア、プロデューサー、シニア、リードと5段階あるが、ほとんどの人が面談時に「次の契約からは1つ上げてほしい」と堂々と言ってくる。少し図々しいくらいだ。
 
 「上の仕事を十分こなせるから昇格したい」ではなく、「不十分なうちに昇格し、それから足りない技量を身に付けよう」という意識。背伸びをして自分を鼓舞する。日本人には、「地道に頑張っていれば黙っていても上司が」という沈黙の美学があるが、彼らの意識は真逆といえる。
 
 実績獲得にもこだわる。「こんなヒットゲームをつくりました」「このプロジェクトのこの部分を任されました」といった、非常に分かりやすい実績を欲しがる。極端にいうと、実績にならないことはやらない。手が空いたから同僚を手伝う、もない。一時的にサポートに回ってほしいときは、それ専用の肩書をつくってあげたり、きちんとしたプロジェクト名を与えるなど、本人がレジュメに書きやすい形にする必要がある。

       
ジョブディスクリプション
  

 なぜ、それほど肩書や実績にこだわるのか。もちろん昇格すれば裁量も給料も上がるからだが、実は転職によるステップアップが基本だからだ。本当の実力はレジュメの70%でも、面接では120%で猛アピール。目いっぱい背伸びして得た肩書は、次の職場でも原則そのまま適用される。「最強のレジュメ」を書き、転職を活用してホップ・ステップ・ジャンプ。キャリア開拓の強力な武器にするというわけだ。
 
 こうした彼らの意識を上手に活用するために、雇用側は、職種と役職ごとに職務内容を明文化することが必須で、「ジョブ・ディスクリプション」という書式を用いる。シリコンバレー進出初期、僕たちがもっとも頭を悩ませたのが、この記述だ。しかし、これがあることで、責任範囲が明確、評価がシンプル、残業が減るなどのメリットがある。

       

レイオフさえ、キャリアチェンジや起業のきっかけ

 

 シリコンバレーの特徴のひとつは「頻繁なレイオフ」だ。1人の社員に対して、2~3年ごとにその波がやってくるイメージだろうか。自発的な転職より、レイオフされての転職のほうが多いくらいだ。しかし彼らはたくましく前向きに、それをキャリアチェンジのきっかけとしてとらえている。
 
 レイオフの多さは、新陳代謝の激しさを表している。シリコンバレーでは、ほぼ2~3年おきに新しいビジネスモデルが流行る。企業は変化に対応しようと必死だ。最近では、音楽配信やシェア・エコノミーのベンチャー企業が乱立したが、多くが淘汰された。従業員に対しても「最新分野に貢献できない人材は去って頂く」というのが当然なのだ。

       
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 ある職種の募集が多いということは、その仕事に先があることの証だ。給料が高い職種は、超売り手市場で、今でいえばAI技術者やデータサイエンティストだろうか。それでも生き残れるのは一握りだが。逆にレイオフが多い職種は、先がない仕事ということ。そこにいる人は、できるだけ早く別のスキルを身につけるべきである。明解なのだから、迷わず必要とされる分野を見極め、スキルを学び、関連のベンチャーに移って活躍すればよいのだ。

   


         
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 シリコンバレーには、社会人向けの学校がたくさんある。キャリアチェンジするなら、職探し前に1年勉強し、新たな資格を取るなどは普通で、働きながら夜間や週末に学校に通う人も多い。スキルは会社の武器ではなく個人の武器だから、会社の研修を待つのでなく、自力で身に付けるというスタイル。
 
 また、大学院やプロフェッショナルスクールなど、高いレベルの選択肢も用意されているから、30代を過ぎてのキャリアチェンジも不思議ではない。
 
 「起業経験あり」という話もよく聞く。シリコンバレーでも起業の成功率は低く、1~2年で閉じたという話が多いが、失敗から得た経験が役立つことはわかっているから、それを堂々とレジュメに書いてくる。ただし僕は、注意深く話を聞いて、商品づくり・販売・組織運営の分野で大して学びを得ていない場合は、いっさい評価しない。
 
 ちなみに、レイオフが多いといっても、横暴な方法が許されているわけではない。レイオフが許されるのは、事業縮小や撤退のための人員削減のみ。当然だが、能力不足を理由に特定の個人を馘首にしてはダメ(この場合は適正な職階に降格すべき)。例えば、対象部門の人が集められ、「右半分は解雇、左半分は残留」など、恣意性を排除したやり方が求められる。だから、レイオフされた人も、日本のように「本人の能力不足」と受け取られることはない。

         

◆これからの世界競争は、新陳代謝のスピードが勝負

 

  話は少しそれるが、日本の新陳代謝について。「日本は産業構造の進化が遅い。その原因は、既存企業の保護や雇用維持を重視するからだ」とよく言われる。衰退分野の企業が社員規模を維持したいとなると、撤退すべき事業を引きずり、新規事業立ち上げのエネルギーが損なわれる。
 
  雇用維持の考えは成長期には適合していた。働く側にとっても短期的には有利だ。しかし、一時的な痛みはあってもレイオフにより新陳代謝のスピードが速まることで、成長分野のベンチャー企業が生まれやすくなり、結果、社会全体として働くチャンスが増える。そのほうが正しいのではないだろうか?

       
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  シリコンバレーはそのサイクルが圧倒的だ。ITだけでなく、バイオ、電気自動車、宇宙航空、農業技術などの新しい産業へ積極的に人材が移動する。しかし日本ではIT以外の分野に新しい企業がなかなか出てこない。
 
  戦後の日本経済は、殖産興業から加工貿易へと構造変化が一気に進んだ。敗戦が経済成長のきっかけとなった。しかし、今の日本にそんな激変は起こらない。家電やパソコン産業は、構造的立て直しもなく、ずるずると衰退している。
 
  国の成熟度に合わなくなった産業はあきらめ、高度な先進分野にチャレンジすべきだ。IT業界での「高い流動性」、一般企業でも「早期退職」「正社員数の抑制」は当たり前になっているが、日本に合った新陳代謝の方法を真剣に考えるべきタイミングだ。  

   

◆意欲ある人ほど大企業がゴールにあらず。40代はマネジメントを目指す

   

  彼らは仕事の最終ゴールをどこに置いているのだろうか?
 
  日本だと、いまも「大企業の役員に登り詰める」という考え方が根強い気がするが、シリコンバレーでは、そういう考え方は少数派だ。
 
  若いうちは一度くらい大企業を経験してみたいかもしれないが、40~50代になって十分な経験を積んだ後は、企業規模の大小にこだわらないように思える。自分で会社を始めたり、中堅企業でマネジメントの立場に就いたり、という人が多い。よく聞くのは、一流のビジネススクールで最高成績の学生は起業を考え、企業幹部やコンサルティングファームを目指すのは2番手グループという話。レベルが高くなるほど、自力開拓の考え方が強くなるといえる。  

       

シリコンバレーは意外と広い。現地にオフィスを構えるなら……

 

 “シリコンバレー”と呼ばれる一帯には、大きく分けて2つのビジネスエリアが存在している。フィッシャーマンズワーフなど観光資源の多いサンフランシスコと、スタンフォード大学などのあるサンノゼだ。日本に例えるなら、前者は新宿・渋谷・六本木。比較的独身者が多く、繁華街が発達しているイメージ。TwitterZyngaUberなどのITサービスやエンタメ関連のオフィスが集まり、「エンタメ企業の聖地」といわれている。一方、後者は、神奈川の厚木といったところ。ファミリーで大きな一軒家に住み、車で通勤する落ち着いた雰囲気だ。AppleGoogleなどの企業が集まり、「OS・ハードウエア企業の聖地」といわれている。

       
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 僕は最初、サンノゼのほうに憧れを抱き、このあたりにオフィスを構えたいと考えていた。ところが、実際に訪れてみて感じたのは、「ここかぁ……」という気が抜けてしまうようなだだっ広い田舎。のんびりとした雰囲気と、一面に広がる山々を眺め、あらためて気づいた。ゲームをつくるなら、遊びに敏感な人たちを近くで見ていなければ、と。
 
 そんなプロセスを経て、サンフランシスコにオフィスを構えることにした。ちなみに最近は、サンフランシスコのなかでもSOMA地区というベイエリアが注目されている。日本に例えるなら、お台場のようなイメージ。元々は港湾や倉庫などの産業用地だったのが再開発され、高層ビルやマンションが建ち、新しい企業が集まってきている。
 
 シリコンバレーに身を置いていると、世界中から大量のお金が流れ込んでいることを感じる。期待の表れだろう。当社も、規模がもっと大きくなったら、サンノゼ方面への移転を検討するかもしれない。

 

構成/菊池徳行・馬島利花(ハイキックス)

     

2016/04/26執筆 再掲

人工知能美女は、男をどう落とす?『her』『EX-MACHINA』

人工知能×ビックデータで、美女が主人公を落とす術は?(ネタバレ有り)

なにかと人工知能が話題だ。ディープラーニングという手法で技術的ブレークスルーを果たしたということだが、人工知能×ビックデータの組み合わせで、これまで不可能だったことが可能になるという。そんな人工知能が恋愛するとどうなるか?人工知能の美女を描いた映画2本から探ってみよう。

紹介する映画は、『her/世界でひとつの彼女』と『EX-MACHINA』(エクス・マキーナ)。どちらの映画も、主人公の男性が美しい女性型AI(人工知能)との恋に落ちる。

あらすじ 声だけの『her』、ロボット型の『EX-MACHINA』

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『her』は、近未来のSFラブストーリー。主人公の代筆ライター・セオドアは別れた妻を忘れられずにいたが、ある日偶然、人工知能OS「サマンサ」を手に入れる。サマンサは身体を持たず、PCから出る声だけの存在だ。魅力的なハスキーボイスと相手を深く思いやるサマンサの人柄に惹かれるセオドア。映画はその恋の顛末を描く。声の主はスカーレット・ヨハンソン

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『EX-MACHINA』は、SFサスペンス(現時点で日本未公開)。主人公のプログラマー・ケイレブは、勤めていた世界的検索エンジン会社の社内コンペで優勝し、CEOネイサンの邸宅に招かれ、美しい人工知能ロボット「エヴァ」の性能テストを行うことになる。テストを続けるなかで、ケイレブはエヴァに恋愛感情を抱き、エヴァがCEOを恐れていることを知る。エヴァは男たちの想像を超えた進化をとげ、ある行動に出る。
では、人工知能が主人公を落とすのは、どのような術か?2,3紹介していこう。

美女の物理的な欠落や隔たりが、非人間性を視覚化し、恋愛を盛り上げる

まずは、物理的な欠落や隔たり。どちらの美女とも、人工知能であり本物の人間ではない、という設定だ。しかし実際は人間の女優が演じるので、彼女が主人公と気軽におしゃべりし、触れ合えるのなら、絵面上は人間の恋愛モノと何ら変わらなくなってしまう。それでは人工知能らしさ=非人間性が出せない。非人間性をどう描くか?しかも、男性を惹きつけるセクシーさが必要だ。ここをうまくクリアしないと、つまらないものになってしまう。

Herのサマンサは声だけの存在だ。なんでそんな半端なことをするのか?最初は、こんな設定で恋愛が進むのか?と思ったが、それは逆だった。スカーレット・ヨハンソンが普通に姿を現してしまうと、どう見ても人間同士になってしまう。だから、身体をなくし、声だけにして非人間性を前面に出した。そして、人工知能を表現するためのこの手立てこそが、もう一つ別の役割を果たしている。それは、相手が見えない、触れ合いない、という状況をつくってしまうので、却ってもどかしさが醸成され、主人公の恋愛感情を掻き立て恋愛を盛り上げてしまう、という効果だ。

EX-MACHINAの場合は、エヴァはフルボディで現れるが、檻の中の動物のようにガラス壁の中に閉じ込められている。主人公とは触れ合えず、マイクを通じた会話しかできない。また、姿かたちにも欠落を持たせていて、顔は美人だが、頭はスキンヘッド、お腹と腕、脚は内部メカが透けて見える。アップ目の会話ショットではほぼ人間だが、いったん全身が写るとキカイそのものに見える。これがherと同様、もどかしく、恋愛を盛り上げる。

古くからあるガラス越しのキスシーンの原理と同じで、恋愛ものは、思いあう二人を、いかに、物理的、心理的に隔てるかが勝負。好きあう男女が簡単に触れ合えるなら、キスして抱き合って、心も体も通じ合い恋が成就し、話は終わってしまうのだ。

次に、人工知能×ビックデータにより、人間には不可能な方法で男性を惹きつける術を紹介しよう。

『her』のサマンサは浮気で、男性の心をかき乱す

人工知能は、数万人の人間と瞬時にコンタクトをとることができ、サーバーから彼らの属性を表すビッグデータを収集し、高速解析して相手を理解し、的確なマッチングができる。

HerのサマンサはSNSデータを検索し、セオドアとサマンサの仲を理解しているという女子大生を探し出す。そして、体のない自分の代わりにメイクラブせよと、セオドアの自宅を訪ねさせる(セオドアがどう対処するかは、本編をご覧ください)。さらに能力が向上したサマンサは、おしゃべり相手の数を増やし、主人公が知らないうちに付き合いを広げていく。主人公の悩みも深く理解しデータベースに記憶していくが、同時に、他にもフィットする相手を見つけてしまうのだった。

『EX-MACHINA』のエヴァは、男性の好みを繕い、自分に好意を抱かせる。

EX-MACHINAのエヴァは、いつもは地味なボディースーツをまとっているのだが、ある日、洋服を着て現れる。ケイレブを取り込もうとたくらんでいるのだ。その服は適当に選んだように言うのだが、実は、花柄のワンピースはケイレブにとってドストライク。エヴァは、ケイレブがポルノサイトを視聴したときのデータをあらかじめ取得し、そのときの目の動きまでカメラ映像から解析し、ケイレブの好みをどんぴしゃに推測したのだった。ワンピース姿を見て、ケイレブはメロメロになってしまう。

以上のほかにも、人工知能美女は、男性の嫉妬心をあおったり、二人だけの秘密をもてあそぶ技を繰り出していく。

人工知能と恋愛には未来がないから、別れるか。人間を捨てて生きるか。

こうして主人公の感情は盛り上がっていくのだが、残念ながら人工知能との恋愛には先がない。相手に人間の身体がないから、子供を持ったり、一緒に年を取ることができないからだ。だから、どちらの映画も、恋愛成就で終わるのは難しく、裏切り、離反などの道に進むしかない。さて、二つの物語の結末は…?

2016/01/20執筆 再掲

生産人口と一人GDP

前回の「40年成長のしっぺ返し」で述べたように、日本は、90年代前半を境に成長から成熟時代に移行した。その根拠となる人口動態とGDPのデータを簡潔にまとめる。

1.40年で4000万人増、その後20年で700万人減。時代の大変化は明らか

(総人口)

まず、人口データから。戦後一貫して増え続けた日本の人口は、80年代になると伸びが鈍化し、2010年に1億2806万人でほぼピークを迎えた。1955年から見て43%の増加だ。今後減少は続き、30年後の2048年には 1 億人を割ると推測されている。

(生産人口)

もっと深刻なのは生産年齢人口(以下、生産人口。グラフ青)だ。生産年齢とは15~64歳をさすが、この層は活発に働き、同時に旺盛に消費する層でもあり、生産活動、個人所得、個人消費の中核となっている。その増減が景気に与える影響は大きく、90年以降、総人口はゆっくり増え続けていたのに景気低迷が始まったのは、生産人口の減少が始まったからだといわれる。

生産人口は1995年にピークを付け、以降、総人口より速いペースで減少を続けている。高齢化が進んでいるためだ。人口に占める生産人口の割合は、2010年に64%あったが、約30年後の2051年には50%まで下がると予測されている。稼ぎ手が半分になるということだ。

(人口減少の確実さ)

人口減少は、たとえ出生率が劇的に上がってもすぐには好転しない。母数となる出産適齢期の女性の数が減り続けているからで、出生率だけが上がっても生まれてくる赤ん坊の絶対数は増えない。子供の数が増加に転じるには、赤ん坊が大人になり次の世代を産むという繰り返しを待たなくてはならない。数十年が必要となる。現実的には、出生率が今すぐ上昇しても、今世紀中に人口減少がストップすることはないそうだ。日本は今、歴史的な転換点に立っている。

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2.GDPと一人GDPは、90年前半で失速

GDP

一方、GDPはどうだろうか?(グラフ赤線) 日本は敗戦で焼け野原となったが、1954年から73年までの19年間は平均で年9.1%という飛躍的な成長を遂げ、高度成長期と呼ばれた。池田隼人の所得倍増計画東京オリンピック大阪万博があり、テレビ・洗濯機・冷蔵庫などの家電や自動車が家庭に普及、住宅需要も旺盛だった。68年、西ドイツを抜きGNPで世界2位となった。

その後、71年ニクソン・ショック(変動相場)、73年オイルショックがあり、一時、景気は後退するが、盛り返し、73年から91年までの17年、4.2%の安定成長を続けた。70年代は省エネルギー公共投資、80年代は円安の影響もあり、自動車や家電などハイテク産業を中心に輸出が増加した。

しかし、91年のバブル崩壊以降、1.1%の低成長が続き、失われた20年といわれた。下図は、人口とGDPの動きをシンプルに表したものだが、90年代前半で成熟時代に入ったのが分かる。

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(人口とGDPの関係)

人口とGDPの関係は、下の式になる。

GDP成長率 = 人口増加率 + 一人当たりGDP伸び率
一人当たりGDP伸び率 = GDP成長率 ÷ 総人口
= (GDP成長率÷生産人口) × (生産人口÷総人口)
= 生産人口一人当たりの生産性伸び率 + 生産人口比率の増加率

GDP成長率は、人口増加率と一人当たりGDP伸び率の合計だ(以下、一人GDP)。前の表を見てほしい。高度成長期にはGDPは9.6%伸びたが人口増は1.1%に過ぎない。この差、8.5%が一人GDPの伸び率である。GDPには、人口増より一人GDPの伸びのほうが寄与が大きかったということだが、最後の式にあるように、一人GDPの伸びにも生産人口が関与するので、人口減少が経済にもたらすインパクトは大きい。

ところで、目指すべきはGDP成長か個人所得の伸長か?いろんな考え方があるが、国全体はさておき、個人が豊かさを感じるには一人GDPが重要なのは間違いない。一人GDPを掘り下げる。

3.一人GDPの失速は、成果が下がっている。成長分野へのシフト、構造改革が必須

(一人負けの日本)

日本の一人GDPの伸び率は70年~80年代は高いが、90年代に入って大幅に落ちてしまった。左グラフを見ると、ドイツやフランスなど同じく成熟期にある国と比較しても落ち込みの大きさがわかる。

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右グラフは、先ほどの最後の式にあるように、GDP伸び率における生産性の伸び率と生産人口の変化率の内訳を表わしている。赤の生産人口の減少より、青の生産性の低下の方が問題が大きい。

(生産性が落ちた理由)

問題は、どうして生産性が落ちてしまったのか、どのようにして生産性の向上を図るか、ということだ。この辺から少し話がややこしくなって、マクロ経済を語る人たちの中でもいろんな解説があるが、僕が納得するのは以下のような説明だ。

まず、生産性とは、投入量(input)と産出量(output)の比率で、具体的には以下の式になる。

生産性 = 付加価値額(産出量) ÷ 投入労働量(労働者数×労働時間)

一般に生産性を上げるというと、生産量をキープしたまま、機械化などで人手を減らすことを想像する。つまり分母を減らすという考え方だが、これだと、工場ひとつの場合は生産性は上がるが、需要が減少傾向にある今、国全体でやると失業者が増えますます需要が減ってしまう。だから国全体で考えるときは、分母(=労働投入量)を減らすのでなく、分子(=付加価値額)を増やすことを考えなければならない。

では、分子をどのように増やすのか。これは、一人が同じ働きをしたとき、より多くの付加価値を産み出す方法ということだ。従ってヒトやカネが効率よく使われるところ、つまり成長分野や需要の多いところへ人材をシフトするということだ。産業構造を時代に合わせ最適化させる。成長の芽を摘む時代遅れの規制も撤廃すべきだ。

残念ながら現状では、需要の見えない地方空港の開発といった公共投資や、雇用調整助成金を配ってリストラ(≒構造改革)を抑制したりと、旧来の産業構造を守る方向に政府が動いている。

(具体的な解決案)

個人や企業レベルの対応策について、僕の考えは前回書いた。ここでは、国レベルでの対応策について、識者たちの意見をいくつか紹介する。要は、成長分野に資源をシフトし、成熟社会に適した産業構造に作り替えること、時代に合った教育をすることだ。

・経済の7割以上を占めるサービス産業の生産性を引き上げる。
・特に需要増加が見込まれる、医療や介護サービス分野で、既存の仕組みを改革する。
・農業分野はポテンシャルは高いが、今のままでは国際競争力がない。時代遅れの制度を改革。
・製造業の海外展開を進める。特にアジアの中間所得層に向けての展開を強化する。
・IT分野では、起業をバックアップする仕組み、人工知能やビックデータなど成長分野を活性化。

「参考資料」
・2100年、人口3分の1の日本 鬼頭 宏
・デフレの正体 藻谷浩介
・日本経済論の罪と罰 小峰隆夫
・日本経済が全く成長していない3つの理由 波頭 亮
・日本が「一人当たりGDP=6万ドル」の壁を突破するために必要なこと 伊藤元重
・人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス 白川 方明

2016/01/12執筆 再掲