クリエイティブ起業のすすめ

デジタルコンテンツなどのクリエイティブ分野で起業を目指す人に向けて、自分の体験をベースに役立つ考え方やノウハウを提供したいと思っています。

シリコンバレーで学ぶ② トップダウン型のリーダーシップ

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株式会社ボルテージ
代表取締役会長 ファウンダー
津谷祐司


 本シリーズでは、停滞する日本が「新ビジネスを次々生み出すシリコンバレー」から学ぶべきものは何か、を考えている。1回目は「キャリア自力開拓の精神」を取り上げた。今回は「組織のあり方」と「リーダーシップ」に焦点を当てる。新ビジネスを次々生み出す、組織とリーダーのあり方とは?

シリコンバレーは「トップダウン型」、日本は「ボトムアップ型」

 シリコンバレーで経営をスタートさせてから、日本とは組織のあり方が違うと感じることが何度もあった。基本的に、シリコンバレーは「トップダウン型」日本は「ボトムアップ型」だ。

 シリコンバレーでは、社長と平社員がファーストネームで呼び合うなど人間関係はとてもフランク。誰もが自分をアピールする文化なので、平気で社長室のドアをノックしていろんな提案をしてくる。正直稚拙なものも多く、最初のころは無下にはできないと対応に困っていたが、間もなく分かったのは、上司が一旦「A」と決めると、本人の意向は「B」でも素直に従う文化だということだ。日本だと「せっかく提案したのに」と後を引きそうだが、なぜこういうメンタリティが醸成されたのか?

 一番の理由は、役職ごとに責任と権限がはっきりしているからだと思われる。プロジェクトが失敗したら、その責任はリーダーが負う。「クビになるのは自分」と認識しているからこそ、リーダーは部下が何と言おうと自分が信じる道を強く推す。部下のほうも、自分に権限がないことが分かっているので無駄な反発はしない。決定権を持ちたいなら、リーダーに上り詰めるのが先なのだ。もちろん、決定権を持つとはいえ、リーダーが専制君主的な振る舞いをするわけではない。その道を選んだ理由を丁寧に説明するのは当然だ。
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 日本の場合、言葉使いや作法など人間関係の上下は厳しいが、仕事上の意識はリーダーも部下も横一線に近い。だから、プロジェクトが失敗したとき、その責任はチーム全体にあるとされることが多く、リーダーの降格は起こりづらい。個人責任の追及は、日本人のメンタリティにも反する。だから、リーダーは強く主張するより、部下の意見を集約する「受けの立場」になりがちだ。

 こうした差が生じるのは、日本と西洋の主従関係に歴史的な違いがあるからだろう。一言でいうと、日本は殿様と家臣の間の準血族的で長期的な関係。西洋では、騎士が真に仕えるのは神であり、現世の主人との契約はビジネスライクで短期的なもの、という関係が醸成されているということだ。*詳しくは、おまけコーナーで。

トップダウンは起業時に威力。ボトムアップは改善時に効果


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 トップダウンボトムアップ、双方にいい点、悪い点があるが、新規事業を起こすケースに関しては、トップダウン型のリーダーシップが圧倒的に有利だ。

   既存ビジネスの場合、具体的な形がすでにあり、現場担当者には様々な知見がたまっている。日々ユーザーの反応に対面し、試行錯誤を続けているのだから当然だ。課題にぶち当たっても、蓄積を生かし、知恵を出し合えば解決できるものが多い。集団的なボトムアップ組織は、商品を世の中に出した後、改善しながら継続していくビジネスに向いている。

 しかし、まだ形のないビジネスをつくろうとする場合は異なる。大勢でむやみに議論しても時間の無駄だ。何が正しいのか誰も分らないから、結論に至れず、仮説が積み上がるだけ。だから、誰か一人の決定者を立てるべきなのだ。完成形のイメージを明確に持ち、かつ、スタッフを引っ張る胆力を持っている人物がいい。日本でも、成功しているベンチャーソフトバンクを筆頭に強いリーダーによるトップダウン型が多い。

 ジョブズザッカーバーグなど、有名どころの起業家は、市場の淘汰を何度も潜り抜ける過程でトップダウン型のリーダーシップを磨いてきた。では、組織内で新規事業を創出する場合、どうやってリーダーを定めるか? 組織内で人物評定したうえで、一定期間任せてみるしかないだろう。そして、成果の度合いとチームの士気によって、リーダーの力量を判断する。

 注意すべきは、独裁的なトップダウンだと、商品が独りよがりになりがちなこと。有名な話がアップルのiPad開発だ。ジョブズiPhoneは3.5インチ、iPadは9.7インチ以上と信じていて、7インチのタブレットなどあり得ないと公言していた。しかし彼亡き後、新体制のアップルは7.9インチのipad Miniを発売し、成功させた。

トップダウン型リーダーがやるべきこと


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 ボトムアップ型のリーダーなら、目指すビジョンやゴールが不明瞭でも、部下が頑張ることで物事は前に進むことがある。  しかし、トップダウン型だとそうはいかない。ゴールを示さないとスタッフが動いてくれないため、何をすべきかわからず、止まってしまう。トップダウン型のリーダーは、明解にゴールを示し、自ら先導して動く「有言&実行」型であるべきだ。僕が考えるトップダウン型リーダーの要点は次の4つだ。
① ビジョンやゴールを明確に語る  メンバーに実現したいことのイメージを語り、当面のゴールと期限を具体的に設定する。

② 課題解決の方法論を示す  ゴール実現のための戦略や方法論を示す。また、実行過程で問題に直面したときも、解決策の提示はリーダーの役割。日本だと、現場担当者が解決しようとするが、シリコンバレーの現場は問題だけ上げてくる印象だ。僕は、日本ではPDCAプロセスを若手中心に廻していたが、SFスタジオではリーダー中心に切り替えた。

③ 全員に貢献させる  メンバー全員に役割分担し、プロジェクトに貢献している実感を持たせることが重要。それによってやる気がまったく違ってくる。誰がどのパートを担当し、いつまでに仕上げるか、綿密に計画し、毎週進捗を確認する。

④ 部下との密なコミュニケーション  リーダーが専制君主では人は動かない。部下としっかりコミュニケーションを取る。酒の席などではなく、一人ずつ時間を取って定期的にその場を設定する。
 ちなみに、日本のボルテージでは、リーダーがゴールや解決策をコンパクトに紙面にまとめ、月一度の全社会議で発表するという文化があり、これはそのままSFスタジオでも引き継いでいる。

シリコンバレーでは、管理職になる時点で強制的にリーダー教育をする

 リーダーシップをどうやって獲得するか? 日米では大きく違っている。

 日本企業の場合、社員はゼネラリストとして育成されるケースが多い。新卒入社後、複数の専門分野にまたがったローテーションが施され、その延長線上で管理職への選抜が行われる。リーダーシップは、そのキャリアパスを通じて自然に習得されるものであり、管理職のポジションに就くころにはある程度備わっているととらえる傾向がある。このため、なかなかリーダーシップの開発に目が向けられなかった。

 米国では、若いころは専門スキルを積みたいというスペシャリスト志向が高いが、管理職に選抜されると、それまでとは異なり、広い視野を持ち、チームをマネジメントするリーダーシップの習得が要求される。そのため、リーダー教育に積極的で、研修、評価、ローテーションがシステマチックに組み合わされた様々なリーダーシップログラムが開発され続けている。
(出典:「リーダー像に異変あり 日本は『強制型』米国は『調整型』」 2007 ヘイ コンサルティング グループ)

◆リーダーになりたい人、なりたくない人

 シリコンバレーでも日本でも、働く人全員がリーダーを目指しているわけではない。

 日本企業では、新卒入社後35~40歳前後までは横一線の出世競争が続き、そのプロセスのなかでリーダーシップを身に着けようとする。しかし現実は、新卒入社の全員がリーダーを希望するわけでも、その資質を有しているわけでもない。

 シリコンバレーでは、30歳前後にはリーダーの資質が見抜かれ、エリートコースに乗る人とそうでない人に選別される。そして、エリートコースには、先述したようなリーダーシップ教育が施される。一方、エリートコース以外の人はスペシャリストを目指すことになる。当然だが、より権限と責任の重いエリートコースのほうが、スペシャリストより優遇され、報酬も高くなる。

 リーダーはとてもストレスフルなポジションだ。ばらばらのメンバーをひとつに束ね、定めた目標へと引っ張り続ける。絶えずメンバーから不満をぶつけられるが、ファイティングポーズを解いてはならない。ちなみに、打たれ弱いといわれる「ゆとり・さとり世代」には、リーダーの立場になることを望まない人も多いようだ。今の日本企業は、早期のうちに将来のリーダーたる人材を選別しておくべきだと思われる。

◆危機感をあおるべきか、盛り上げるべきか

 目標や課題解決以外に、全体の雰囲気を盛り上げる、士気を高めるというのも、リーダーの重要な役目だ。ポジティブにいくか、失敗に訴えるか(ネガティブでなく)? 売上目標100に対し予測が95の場合、全社会議でどう発言をするか? 日米ではその方法が180度異なる。

 「目標がクリアできないようでは駄目だ!」そうやって緊張感、危機感をあおると、みんな引き締まったいい顔をする。先日、日本に帰国してボルテージの入社式に出席したとき、軍隊的、号令、一糸乱れぬ起立で、怖いくらいだった。このやり方は、日本人にとっては効果的だ。

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 しかし、SFスタジオの全社会議で僕が厳しいことを言うと、シュンとして「この会社には将来性がないのかな」という表情をする。「95%までいった! もう少しだ、やってやろうぜ!」と、いい点を強調し、ウソでもいいから盛り上げるべきなのだ。米国人は、このままでは厳しいとわかっていても、社長が「GO!」と宣言すると元気を出してくれる。ちなみに、シリコンバレーでは、小学校でも常に皆でチームを盛り上げる風土が根付いている。この感覚差の原因は分からないが、日本は戦後の厳しい時代があったからだろうか?

◆日本にシリコンバレー型を取り入れると、どうなるか?

 日本でシリコンバレー型のリーダーシップを取り入れる場合、一つの会社でも、既存事業はボトムアップ型、新規事業はトップダウン型などと使い分けるのがいいのではないか。

 新規事業でのリーダーの育成として リーダー候補には、起業経験を通したリーダーシップの開発機会を与えるのがいいだろう。日本の起業環境はシリコンバレーほど整ってはいないし、社員は企業内に留まりたい傾向が強いため、「社内ベンチャー」が向いているかもしれない。その際、次の3つの要点が欠かせない。
① 「権限与える&責任取らせる」 リーダーに権限を与える。成功、失敗に合わせ、報酬、降格などのルールをしっかり設定する。

② 「ゴール・解決法を語らせる」 A4の用紙1,2枚でいいので、ゴールや達成策など自分の考えを紙に落としさせ発表させる。これを習慣にする。

③ 「ポジティブに盛り上げる」 商品の完成、初めての販売など小さな結果を皆で喜ぶ。盛り上げて、チャレンジングな雰囲気を維持する

##column
シリコンバレーは人間を役割に当てはめるvs日本は人間が役割に合わせる

 森本作也氏の著書『グローバル・リーダーの流儀』では、シリコンバレーの組織を「レンガ型組織」、日本の組織を「石垣型組織」と呼んでいる。それは主従関係の違いによるものだといわれているらしい。最初、この本を読んだときはよく分らなかったが、シリコンバレーで1年ほど経営を続けるうちに森本氏がいうところの違いが理解できるようになってきた。  
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 シリコンバレーの組織形態といわれるレンガ型は、役職ごとにやるべきことが明確に決まっていて、人がその役割に自分を当てはめる。いってみれば鋳型に人間をはめ込むという考え方である。レンガを並べてつくられた壁のように、同じ大きさの塊が交互にきっちりと積みあがっているイメージである。

 日本の場合の石垣型は、同じような立場の人間でも、人によって得意不得意があるので、その人の能力を最大限に生かして仕事してもらう、という考え方。その石垣は遠目には均一の形にそろっているが、一つ一つの石は大きさも形もばらばらだ。しかし、うまくはめ込まれて隙間はない。

 日本の殿様と武士の関係は、生涯を通じた一蓮托生のもの。主君の入れ替わりは基本的にないので、先々まで考え誠心誠意尽くす。主君は別格だが、武士同士は平等意識が強いので全員が助け合う。西洋は騎士が仕えるのは神であり、主人との契約はビジネスライクで短期的。成果を上げないと首になるし、別の主人に乗り換えるのもアリ、というある意味ドラスティックな文化だ。

 レンガ型の組織には無駄が少ない。だからスピードは速い。ただし、仕事がうまくいっている時はいいが、変化があった時に自動的に変化・吸収はできない。だからリーダーがそれに気付いて、そのたびごとに分担を決め直す必要がある。

 一方の石垣型は、人がその変化に応じて役割を合わせていく。環境が変わったときは、アメーバのように各人が能力を生かして自然にその変化に対応すべく各員の役割を調整する。そのため、リーダーが人為的にやり過ぎないほうがうまくいく場合が多いのだ。

レポートラインも明確

 日本の組織では、若手社員が、直属の課長ではなく、その上の部長からアドバイスを受けた場合でも素直にそれに従う、ということはよくある。また、隣の課の課長のアドバイスにも真摯に耳を傾けるのも一般的だ。

 しかし、シリコンバレーの人たちはそういうことはしない。部長が言ったことも横の課長が言ったことも、悪くいえば無視する。「レポートライン」を重要視しているから、直属の上司以外の指示は聞かない。雇用契約の相手は、会社ではなく、直属の上司という意識なのだ。僕も、現場担当者への気軽なアドバイスは避け、彼らにやってほしいことは幹部層に伝えるように改めた。

◎Vol.3 「ボルテージUSA、3年の挑戦」に続く。 

構成/菊池徳行・馬島利花(ハイキックス)

     

2016/05/02執筆 再掲